mstk's diary

新聞コラム

春秋 人を救ってくれるカエル達が今危ない

 おびただしい数の変えるが水面に鼻先だけ出して浮かんでいる。手足と体は水槽の中でだらんと垂れ下がっている。物音に驚く様子もない。少しも動かないから、本当に生きているのか、ちょっと心配してしまう。広島大の両生類研究施設が飼う3万匹のカエルである。

▼こんなにのんびりした格好で、彼らはいったい何をしているのだろう。「これは至福の満足かんにひたっている姿なのです」。40年もつきたっているから、特任教授の柏木昭彦さんには気持ちが分かるらしい。カエルにとって、ここは桃源郷なのだろう。きれいな水。広い場所。おいしい食事。毎日が休日であるに違いない。

▼ips細胞の研究は、実験動物のカエルのおかげで進歩した。ストレスなく健康に育つから最高の状態の生体素材になるそうだ。その3万匹の幸せな休日を支えるのは、人間である。10人の世話係に、長い休みはない。餌となる大量のコオロギを卵から育て、欠かさず餌をやり、温度を調節し、水や砂を替え、掃除をする。

▼飼育の達人の小林里美さんは動物が好きで、介護の仕事から転職してきた。そっと手のひらに乗せて触れると、体調が分かるという。そんな環境に敏感な生き物が、いま一斉に地球の異変を告げているそうだ。世界に7千種いるカエルのうち半数以上が「絶滅危惧種」に指定されている。のんびりしてばかりもいられない。