mstk's diary

新聞コラム

余録 日本初の氷河

 日本では雪氷学と訳される「グレシオロジー」は直訳すれば「氷河学」だ。19世紀から欧州の地理学者や物理学者らの間で氷河への知的関心が高まり、氷の性質や気象をめぐる学際研究が行われた。

▲もっともその今日の最大の関心事は世界的な氷河の減少であろう。地球温暖化によって、各地の山岳氷河や極地の氷河が誘拐のペースを速めている。赤道近くで氷冠をもつアフリカのキリマンジャロ山の氷河の場合、早ければ10年後にも完全消滅するとの予測もある。

▲そんなご時世だから、絶滅が危惧される珍種の新たな生息が思わぬ場所で確認されたようなものかもしれない。日本雪氷学会は北アルプス立山連峰の剣岳近くの三ノ窓雪渓と小窓雪渓、雄山近くの御前沢雪渓を「氷河」と確認した。むろん日本初の氷河の確定である。

▲今から1万年前以上の氷期には日本にも氷河があり、その地形は今も残る。しかし、今日では万年雪が氷となった氷体はあっても、斜面を流動する氷河はないとされていた。今回はGPS(全地球測位システム)による観測で、1ヶ月に32~7センチの動きが確認できたのだ。

▲これらの雪渓は人の接近が難しく、ハイテク機器による調査が進んだのはここ何年かのことだ。その結果、氷体の厚さは最大30メートルに及ぶことが分かり、またそれが流動している痕跡も見つかっていた。氷河が残ったのは、この地域の世界有数の降雪量のたまものらしい。

絶滅危惧種の発見が保護運動を呼び起こすように、立山連峰の氷河も温暖化に伴い年々その消長が注目されよう。バラエティー豊かな日本列島の自然の財産目録に珍重すべき一項目が加わった。