mstk's diary

新聞コラム

春秋 ミサイルと金正恩体制

 一昨年死去した歌人、竹山広に一首がある。「体制といふ櫓(やぐら)にて微笑せる金正日がまた手をたたく」。「正日」だけ「正恩」と変えてみればいい。いまもそのままである。その北朝鮮で、三本の櫓に正恩氏がのっかる準備が着々進む。

▼三本足の体制とは、人民軍と一党独裁朝鮮労働党、そして国家そのものということになる。正恩氏はすでに軍の最高司令官であり、きのう党の第1書記に就いた。あすには国家のトップへの就任も取り沙汰される。祖父金日成、父金正日の威光を背景に、櫓では重々しげに手をたたく姿が繰り返されるのだろう。

▼しかし、正恩氏にはもう一つ櫓が要るらしい。人工衛星と称するミサイルの発射台である。その施設やらロケット、衛生やらを報道陣に公開したのは「平和利用」をアピールするためだろうが、日ごろことごとくベールに覆っておじぬ国だ。だしぬけにベールを脱いでも、素顔だと信じるお人好しはよもやいまい。

▼正恩体制への景気づけなのか。物騒な飛翔物は今日から5日間に発射される見通しという。あすが死後100年にあたる石川啄木が詠んでる。「草に臥(ね)て/おもふことなし/わが額(ぬか)に糞して鳥は空に遊べり」。空はぼうっと眺めるもの、落ちてくるのはせいぜい鳥の糞。平和とはそういうものである。