mstk's diary

新聞コラム

余録 進化する脱毛治療

 卓越した軍人にして政治家、文人でもあった古代ローマのカエサルは長身で色白、均整のとれた体で口は大きめ、目は黒く炯々(けいけい)と輝く人物だった。スエトニウスの「ローマ皇帝伝」にそうある。

▲その彼は多くの栄誉を元老院や民会から与えられたが、最も喜んで受け取り、リ利用したのは月桂冠(げっけいかん)を終身かぶっていられる権利だった。なぜならばカエサルは髪が薄いのをひどく気にしていたのである。乏しい毛を奇妙になでつけるのを、政敵は容赦なくからかった。

カエサルにしてこうだから、毛髪の悩みは人類の歴史と同じだけ古いといってよかろう。だから先日、毛を作る「毛包」という器官の幹細胞を移植し、無毛マウスに毛を生えさせた実験のニュースに目を見張った方も多いはずだ。かくいうコラム子もその一人だった。

▲東京理科大などのチームによると、移植したのは別のマウスから採取した毛包の幹細胞を培養したものだ。再生した毛包は周りの神経ともつながり、抜けた毛は何度も生え変わった。発毛の密度や本数は、移植する幹細胞を増減することで変えることができたという。

▲もちろん気になるのは、人間への応用である。自分の毛包の幹細胞を大量に培養し、毛の薄い部分に用いる発毛や増毛の期待は誰しも思い浮かべるところだ。だが実際に脱毛症の治療に使うのは、幹細胞の増殖技術の向上などになお10年程度の時間がかかるという。

▲深刻な脱毛症の方のためには早く実用化させたいものの、年齢を思えば当方とはどだい縁のなかった技術だ。だからというのだが、老いも若きもみんな頭の黒々とした満員電車は想像するのも気味が悪い。